←前のページへ次のページへ→



2・E26系特急型客車「カシオペア」

カシオペア

寝台特急 カシオペアの行先表示板


 バブルの崩壊により、有名観光地への旅行客は大幅に減少し、しばしば苦境が伝えられた。ただ、家族・小グループの「たまの贅沢」である「個人旅行」は根強い人気を保っていた。温泉旅館やホテルでもいち早く転身を図り、宿泊客の高級、個性派志向を満足させたところは、この頃でも安定した集客を行なっていたのである。鉄道においてもその傾向は明らかで、「2段ハネ」中心の寝台特急が利用客を軒並み激減させていく中、「北斗星」「トワイライトエクスプレス」のA個室はいつも変わらず満席に近い人気であった。JR東日本もこうした利用客の噂好は的確に掴んでおり、「ニュー北斗星」ともいうべきハイクラスなオリジナルの寝台特急を新製し、上野〜札幌問に投入する構想は、常に抱き続けていた。具体的な計画がスタートしたのは、平成9(1997)年末頃。「北斗星」登場から約10年が経過し、陳腐化や利用客の「飽き」が心配されたことが、ひとつの契機である。前提となるコンセプトは、やはり「列車の施そのものを楽しむこと」とされた。豪華客船によるクルージングの楽しさを鉄道に持ち込むという点では、JR西日本が誇る「トワイライトエクスプレス」と同様である。ただし、これまでのような24系の改造車ではなく、E26系と命名された完全新製革を造ることから、より発想は大胆かつ自由になった。同じ区間には引き続き「北斗星」を運転するので、1人旅はそちらに任せることもできる。ビジネス需要は最初から考慮の外である。これによりターゲットは熟年や新婚の夫婦、あるいは女性グループに完全に絞られた。さらに、この客層の満足を追求していったところ、行き着いたのが「オール・2人用A個室」だったのである。 こうしてまとまったE26系の設計方針は過去には類例がないものではあった。
 しかし、「北斗星」のA個室「ロイヤル」へのリクエストの多さ、すなわち乗車を断っている件数の多さからすれば、充分に勝算はあったようである。最終的には「トワイライトエクスプレス」のそれをさらにリファインした「スイート」を、初めて東京〜北海道系統にも導入。さらに編成の中核を「ツインデラックス」の改良型とし、それぞれ2両と8両を組み込み、食堂車および電源車兼ラウンジカーとともに12両編成とすることが固まった。
 運転開始も平成11(1999)年夏と決まって、「夢空間」以来10年ぶりとなる、客車寝台車の製造が始まったのであった。車体は居住空間の拡大と効率性の両立を図るために、285系「サンライズエクスプレス」に続いて必然的に2階建て構造となったE26系は、平成11(1999)年4月に落成。愛称は「カシオペア」と命名された。カシオペアとは特徴的な「W」の形をしていて広く知られている、天空上で北極星を挟んで北斗七星(おおぐま座、北斗星)とは対極にある星座である。このことから、北海道行き列車に相応しい名前として採用されている。さらに、カシオペア座はおもに5つの星から成っている。つまり、ホテルの最高級ランクを示す「5つ星」とも、過去4つ星(=カルテット)まで存在していた国鉄−JRの寝台車のさらに上を行く寝台車とも、意味が掛けられているのである。
 これだけの自信を持って送り出された「カシオペア」は、平成11(1999)年7月16日に運転を開始するやいなや、1カ月前の発売開始後、数秒で寝台券が売り切れるという驚異的な人気を集めた。E26系は12連×1本しか製造されず、通常は週3回上り下り交互に運転、多客期には隔日運転と、「北斗星」のような「ブーム」とまでは呼ばれなかったものの、JR東日本の思惑以上の成功を収めたのである。ただ、旺盛な需要に支えられて登場するかに思われた増備車は、その後、造られていない。未だ1編成だけのワン・アンド・オンリーのオールA個室寝台特急つまり「孤高」の存在となっているのである。それゆえ運転の確保には充分留意され、故障即運休となってしまう可能性が高い電源車だけは、追って予備車が準備された。これは新製ではなくカニ24 510を再改造して編入したもので、カヤ27 501となった。完成は平成12(2000)年2月。これにより、時折、車体断面がいささか不揃いな、ラウンジカーを欠いた編成が「カシオペア」に充当される姿が見られるようになっている。お目見えしたのちのE26系、および「カシオペア」に、特段の変化はない。
 平成12(2000)年12月から、閑散期に空室があれば1人でもツインを利用できる「カシオペアシングルユース券」が発売され、当初のコンセプトが多少崩れかけたが、これもいつしか姿を消している。安定した人気に支えられ、変わりなく運転を続けているのである。JR東日本は平成元(1989)年のサロ124、サロ212、サロ213を皮切りに、在来線向けの2階建て車両を多数投入してきた。E26系においても、個室の空間を最大限広げ、全室にわたって基本的に2段式ベッドをやめ、トイレ・洗面所を設けるために、過去の実績を基礎として2階建て構造が採用されている。列車のコンセプトを実現させるために、これは当初からの前提となっていた。ハイデッカー式のカハフE26を除く各車の設計の基礎となったのは、平成6(1994)年に登場したE217系のサロE216、サロE217。鋼製の「バスタブ式」低床台枠構造の上に、ステンレス製の構体が組み上げられているのは同様である。外板も同じく、ビートレスの梨地仕上げとなっている。特徴的な曲面で構成されている両前面部は鋼製である。エクステリアデザインは「スペース&フューチャー」がテーマ。外部塗色は無塗装の銀色が基本となり、フランス人デザイナーの手による「CASSIOPEIA」のロゴと、5つ星を表す5色の飾り帯が入る。走行系機器では、客車としては初めて自動ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキとなった点が特筆される。電車では従来よりポピュラーなシステムであるが、E26系でも自動ブレーキの指令伝達速度の遅さからくる、前後方向への衝動を抑える目的から採用された。機関車からの空気圧による指令を客車側で電気信号に読み替えて伝達する方式のため、EF81やDD51といった既存の機関車でも牽引は可能。車両問の連結器も電車と同じ、隙間がない密着連結器である。台車も、いかにも「電車然」としたディスクブレーキ付きの軸はり式軸箱支持ボルスタレス台車。ヨーダンパ、軸ダンパも装備して乗り心地を改善した。また、現代の鉄道車両では当然のものとなった車両情報装置(モニタ装置)も、客車では初めて装備された。これによりサービス機器の操作02や動作状態の確認が各乗務員室で可能となり、居住環境の向上に大きな役割を果たしている。



※参考 鉄道DATA FILE


カシオペア in 上野

長旅のすえ到着したカシオペア


カシオペア&北斗星

回送準備中のカシオペアと北斗星の最後尾





おわり
 
- 30 -
次のページへ→